長期管理薬としての気管支拡張薬の使い方を教えて下さい。

 気管支喘息(BA)の治療薬は、抗炎症作用を主眼に置いた「長期管理薬」と、喘息発作などの症状の改善に使われる「発作治療薬」の2種類に大きく分けられます。前者は、吸入ステロイド薬(ICS)やロイコトリエン受容体拮抗薬などが代表的である。後者は主に速やかな症状の軽減・消失を目的とした気管支拡張薬です。従来、BAの治療は気管支の慢性炎症の管理を軸足として、気管支拡張薬の使用は有症状時に最小限度に留め、長期的な使用は勧められていませんでした。

 しかし近年、ICSと長時間作用性β2刺激薬(LABA:long acting beta agonist)との併用に高い臨床効果が認められるようになりました。特に欧米ではICSとしてフルチカゾン、LABAとしてサルメテロールの合剤(SFC)が、小児においても用いられており、その優性が認められています。

 日本小児アレルギー学会が作成した「小児気管支喘息 治療・管理ガイドライン」(以下 JPGL)では、2008年度版の発行時点でまだ市販されていなかったが、間もなく発売されるとしてSFCの位置づけを暫定的に決められました【文献1】。

 JPGL 2008年度版の小児気管支喘息の長期管理に関する薬物療法プランでは、幼児(2歳から5歳)において、治療ステップ3の追加治療、ステップ4の基本治療で、吸入/貼付/経口のLABAの使用が推奨されています【表1】。しかし吸入薬のSFCは5歳から適応が認められており、剤形がドライパウダー定量吸入器(DPI)のため、実質的には低年齢のお子さんには使用できません。年長児(6歳から15歳)においても治療ステップ3の追加治療、ステップ4の基本治療から、吸入/貼付/経口のLABAの使用、またはSFCの切り替えが推奨されています【表2】。

表1  表2

 乳児においては、β2刺激薬の使用は、治療ステップ3と4の追加治療にて貼付薬と経口薬の使用が推奨されています【表3】。LABAに関しては、まだエビデンスが不十分であり使用は推奨されませんでした。しかし小児においてICSとLABAの合剤の優れた効果が報告されており、乳児では吸入薬のLABAは使用できないが、経皮吸収型β2刺激薬が代替薬になり得るとされています。

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 筆者の経験では、経皮吸収型β2刺激薬の長期間使用は、貼付部位の接触性皮膚炎などの懸念があり、積極的には処方を試みたことはありません。ステップ3で追加治療が必要な状態においては、SFCに切り替えるか、電動式ネブライザーを準備しブデゾニド(BUD)吸入懸濁液にβ2刺激薬の吸入液を混入した吸入に進む事が多いように思います。

 こうしたβ2刺激薬を管理薬と長期間併用し高い臨床効果を示したのは、クロモグリク酸ナトリウム(DSCG)吸入液とβ2刺激薬吸入液の長期間併用を発表した、西川清先生がオリジナルではないかと考えています【文献2】。

 当時、専門医の間ではβ2刺激薬の長期間使用による気管支拡張効果の減弱などの懸念されていましたが、現時点でも臨床的にはその現象は確認されていません。症状の緩和はまず患者が望むことであり、患者の訴えをよく聞きそれに従い新しい治療概念を提唱された西川先生の功績は、これからも高く評価されるべきだと思います。

 なお国内で発売されているICSとLABAの合剤には、「アドエア(R)」と「シンムビコート(R)」の2種類があります。「シンムビコート(R)」はICSであるBUDと、LABAとしてホルモテロールとの合剤のDPIです。ただし本薬剤は、執筆時点で小児適応を取得していません。

■経皮吸収型β2刺激薬の使い方を教えてください。

 JPGLでは経皮吸収型β2刺激薬は、長期管理薬として位置づけられています。使い方も簡便で大変使いやすいお薬で、コンプライアンスは高いと思われます。外来診療で多めに処方を希望される保護者がいます。喘息発作に備えておきたい気持ちはよく理解し、速やかに症状を抑える手段は事前に提示しておくべきです。

 ただ同薬を貼付後すぐに効果が発現すると、保護者は理解されている場合もあります。効果の発現時間は貼付直後ではなく、貼付後9~12時間で最高血中渡度に到達するとされています。あらかじめ備えておきたいとおっしゃる保護者は、患児のBA管理がアンダートリートメントではないかと疑う必要があります。

 そうした場合、BAのコントロールテストを実施してみて下さい。BAの長期管理を行う上で、Global Initiative for Asthma(GINA)2006では、重症度ではなくコントロールレベルによる治療を勧めていいます。国内において小児では小児ACT(Childhood Asthma Control Test:C-ACT)、JPAC(Japanese Pediatric Asthma Contorl Program)が知られています。C-ACTでは20点以下、JPACでは11点以下がコントロール不良であり、長期管理薬のステップアップが必要と考えられます。

 当院では定期受診時にこうしたコントロールテストを用い、現在のBAの管理状態を尋ねるようにしています。これにより発作治療薬に傾倒することを回避し、アンダートリートメントを防ぎ、そして患児や保護者と共通の目標をもって治療に臨むことができるようになりました。

■小児のテオフイリン薬の使い方について教えてください。

 近年、テオフイリン薬の投与を受けた乳幼児において、テオフイリン血中濃度が治療濃度域内にありながら痙攣と重篤な中枢神経系後遺症の発生が報告され、小児BAに対するテオフイリン徐放製剤に投与に疑問が投げかけられています。

 テオフイリン使用中の痙攣は5歳以下に発症することが多く【文献3,4】、中枢神経症状の既往のある症例の中には5μg/mL未満の低濃度でも痙攣が起きる例があることが報告されています【文献5】。また、テオフイリン使用中に痙攣を起こした334例の解析では、痙攣重積化のリスクファクターは6歳未満で血中濃度が15μg/mLを超え、または神経学的素因があり、神経学的後遺症には発熱と神経学的素因が影響することが示されています【文献6】。テオフイリン薬内服中に痙攣が生じた場合、その難治性と重篤な後遺症を来す症例も報告されています【文献7,8,9】。

 しかし一方でテオフィリン徐放製剤を服用中の小児での痙攣出現率は服用していない児における痙攣出現率と差がないとする報告【文献10】もあります。

 JPGL2008では、必ずしも血中濃度上昇のためとはいえない症例があり、血中濃度が低値であってもテオフイリン薬内服中に痙攣が生じる機序は不明であり、今後の研究が必要であるとしています。日常診療において治療対象となる頻度が多い軽症持続型では、年少児・年長児ともに、テオフイリン徐放製剤は追加治療に位置づけられています。安易な使用を避けて、BAの確定診断のもと、長期管理(抗炎症薬の使用)の方針のもとに使用されるべきでとしています。そして特に乳児BAの長期管理におけるテオフイリン徐放製剤の定期内服(RTC療法)の位置づけを明示しています【表4】。

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 筆者は、基本的には気管支喘息のお子さんを治療する上で様々な薬剤から選べることは望ましいことであり、それに異存はないと考えています。しかしながら、他のBA治療薬と比べて至適濃度の幅が狭く、服薬により一層の注意を要する薬剤という印象は否定できません。筆者の診療では、年長児で痙攣の既往はなく、患児自身や保護者がテオフィリン製剤の効果を実感され、処方を望まれる場合に限られるようになってきています。

■自宅にて電動式ネブライザーをにて気管支拡張薬を使用する場合の注意を教えてください。

 喘息発作を起こしBAの管理がまだ不十分なお子さんの保護者から、喘息発作時の自宅対応のために、電動式ネブライザーを購入したいと相談がしばしばあります。ご自宅でお子さんの症状を治めてしまうことができて、大変よいことに思われがちですが、必ずしもそう言い切れない場合があります。

 喘息発作が頻繁にでる状態は、まだ気管支の炎症管理が不十分な状態であり、長期管理薬の見直しが必要です。自宅で加療できると症状を軽く評価しがちで、主治医はBAの管理状態が把握しづらくなります。自宅では治療できない状態でも、医療機関を受診せず過剰な治療を自宅で行ってしまう危険性もありえます。

 この相談をされた保護者には、BAの主な病態は気道の慢性炎症にあり、日常的な抗炎症治療(特にICSやロイコトリエン受容体拮抗薬)が中心であり、発作治療に偏らないように説明をします。その上で喘息発作がBAの管理が困難である場合は、購入を勧めることがあります。またはpMDIの吸入が困難である、ご兄弟no多くが喘息である、なども考慮にいれます。

 筆者は、主治医はお子さんの重症度が把握できており、保護者も長期管理薬と発作治療薬の違いと長期管理薬が重要である事を十分に理解されている、時間外に受診する医療機関も把握できている、などの条件を購入までに整える必要がある考えています。

 薬液を処方する際、1回分の吸入液が充填されたユニットドーズの剤型が発売されており、自宅にて吸入を行う場合、こうした剤型がよいと思われます。医療機関で処置に使用されている吸入液は一瓶30ml程度で、これを処方すると一つの家庭で使い切るには長い時間がかかり、不潔になる可能性があります。また薬液を吸い取るために注射器などを貸与すると、子ども関心を持つので危険だと思われます。

気管支拡張薬とドーピングについて教えてください。

 国際的な大会や国民体育大会などのスポーツ競技では、ドーピング防止規程で使用禁止薬が定められており、喘息治療薬では「β2刺激薬」と「糖質コルチコイド」が該当します。しかし、治療目的使用に係る除外措置(TherapeuticUseExemptions?:TUE)として、TUE申請またはドーピング検査時の申告により、一部の薬剤では限定された投与経路(吸入)での使用が認められています。

 現在、吸入ステロイド薬はTUE申請不要ですが、β2刺激薬のうち、吸入サルブタモール、吸入サルメテロールはTUE申請不要です(ドーピング検査時の申告のみ)。その他のβ2刺激薬では、使用前に「JADA吸入ベータ2作用薬使用に関する情報提供書」を添えてTUE申請を行えば、「吸入」でのみ治療目的使用が認められます。


【1】日本小児アレルギー学会:小児科気管支喘息治療・管理ガイドライン 2008(西牟田敏之,西間三馨,森川昭廣), 協和企画, 東京 ,2008

【2】Furusho K, Nishikawa K, Sasaki S, et al: The combination of nebulized sodium cromoglycate and salbutamol in the treatment of moderate-to-severe asthma in children. Pediatr Allergy Immunol 13:209-16,2002

【3】北林 耐,飯倉洋治,赤揮 晃,ほか.テオフイリンの小児における副作用と上手な使い方-テオフイリン関連痙攣についての検討.日児臨薬誌1998 ; ll : ll-5.

【4】平野幸子.テオフイリン関連けいれん.小児科1994;35: 1385-91.

【5】阿部裕樹,吉川秀人.山崎佐和子,ほか. Theophylline関連けいれんに対する初期治療効果の検討.日児誌2003 ; 107 : 135&60.

【6】小田島安平,中野裕史,加藤哲司.テオフイリン投与中の痙攣症例に関する臨床的検討 特に痙攣発症に影響を及ぼす因子について.アレルギー2006 ; 55 : 1295-1303

【7】川崎有希.塩見正司,外川正生,ほか.テオフイリン投与中の熱性けいれん垂積後に脳葉性浮腫を来し後遺症を残した8症例.日児誌2006 ; 110 : 674-680.

【8】松岡典子.森田清子.絹巻暁子.ほか.テオフイリン治療中に生じた疫撃垂積状態の臨床的検討.日児誌2006 ; 110 : 1234-1241.

【9】前垣義弘,小枝達也.河原仁志.ほか. Theophyllineによる哨息治療中に発症した急性脳症の2小児例臨床的特徴ならびにCT経過.脳と発達1993 ; 25 : 277-82.

【10】Odajima H, Mizumoto Y, Hamazaki Y, et al. Occurrence of convulsions after administration of theophylline in a large Japanese pediatric population with asthma. PediatrAsthmaAllergy? Immunol 2003 ; 16 : 163-73.


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Last-modified: 2011-09-25 (日) 22:15:49 (2995d)